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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)146号 判決

原告 馬見塚善仁

被告 瑞穂町

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が昭和五五年九月一一日付で原告に対してした別紙物件目録(一)記載の土地の仮換地として同目録(二)記載の土地を指定した処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件処分の存在)

被告は昭和五五年九月一一日付で原告に対し、原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件従前地」という。)の仮換地として同目録(二)記載の土地(以下「本件仮換地」という。)を指定する処分(以下「本件処分」という。)をした。

2(違法事由の一―換地計画を定めないでした仮換地指定処分)

しかしながら、本件処分には、土地区画整理法(以下「法」という。)九八条一項に定める「工事のため必要がある場合」に当たらないのに、換地計画を定めないで仮換地指定をした違法がある。

(一)  法九八条一項は、施行者は換地処分を行う前において、「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」(以下「前段の場合」ないし「前段による仮換地指定」という。)「換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」(以下「後段の場合」ないし「後段による仮換地指定」という。)に、それぞれ仮換地を指定することができるとしているが、後段による仮換地指定は「換地予定地的仮換地」であり、土地区画整理事業の円滑な進捗と関係権利者の権利関係の速やかな安定を図り、これらの者をして実質上換地処分がされたと同様な効果を得させるとともに、事業に伴う私権行使の制限を最少限度にとどめるために、換地計画において定められている換地の位置・範囲を仮に指定する処分であつて、将来被指定者の換地となる予定のもとに仮換地を指定するものである。前段による仮換地指定は「一時利用地的仮換地」であつて、単に工事施行のために一時的に従前地の使用収益を停止させる代わりにこれに照応する他の土地を仮に使用収益させるものであり、その目的は円滑な工事の施行を図ることに尽きるもので、両者はその目的・本質を異にするものである。

(二)  法九八条一項は、後段の場合については換地計画に基づくことを要件としているが、前段の場合については換地計画を定めることを要件としていない。前段の仮換地指定をする要件である「工事のため必要がある場合」とは、直接工事の対象となつた土地の仮換地を指定する必要がある場合を意味し、工事の対象となつた土地の仮換地を指定するため、その近隣の土地について順次将来定められるべき換地計画による換地予定地的な仮換地を指定する必要がある場合はこれに含まれないものというべきであつて、このような仮換地を指定するためには、換地計画を定めなければならないと解すべきである。なぜならば、後段による仮換地指定も、前段による仮換地指定も、いずれも工事のため従前地の現実の使用状態に変更(例えば建築物の移転・撤去等)を加える必要のため、すなわち土地区画整理事業の円滑な進捗という目的に奉仕するものであることは共通であるが、(一)において明らかにしたとおり両者の目的・性質は明らかに異なるものであるから、「工事のため必要がある場合」を直接工事のため必要がある場合以外も含むと広く解するときは、特に前段の場合と区別して後段において換地計画に基づき換地処分を行うため必要がある場合に仮換地を指定しうるとした法九八条一項の趣旨は全く没却されてしまうからである。

(三)  また、換地計画に基づかずに実際上換地計画案を縦覧しても、それはあくまで法に基づかない事実上の案の縦覧に過ぎないのであるから、換地計画の変更の場合に比して簡易に変更される危険があり、従つて事実上将来仮換地が換地として指定されると信じている関係権利者に不測の不利益ないし損害を被らせる恐れがあるし、換地計画に基づく仮換地が指定された場合には、関係権利者は施行者から仮清算金の支払いを受けられるのに、「一時利用地的仮換地」の場合はこれを受けられないという不利益も生ずるのである。

(四)  ところで本件従前地が直接工事の対象となつていないことは明らかであるから、「工事のため必要がある場合」には当たらないものであり、従つて、換地計画に基づかずにされた本件処分は違法である。

3(違法事由の二―供覧手続の瑕疵)

被告のした「供覧手続」には重大な瑕疵がある。

(一)  被告は昭和五二年八月一六日から同月二九日まで仮換地案を供覧(事実上の縦覧)に供したとするが、被告は、右供覧に先立つ昭和五〇年三月頃、瑞穂町所在東善院において地主説明会を開催し、「新青梅街道に面した宅地で実測して買つた人については現地換地となるので従前と全く変更はありません。」と確言したので、これに出席していた原告は本件の区画整理につき大いに安堵し、その後の供覧の通知にも格別関心をもたなかつた。

(二)  ところが被告は、右説明会に出席した原告に対する配慮を全くせず、秘密裡に昭和五二年八月二日、右説明と全く相容れない仮換地案を仮決定しこれを供覧に供したうえ仮換地指定に踏み切つたのである。

原告は昭和五五年七月になつて漸く自己に対する仮換地が前記説明と相容れないものであることに気づき直ちに右仮換地案に異議がある旨の意見書を提出したが、もはやこの段階では到底採用されえなかつた。

(三)  しかしながら、原告が前記供覧期間中直ちに異議を述べていればこれが採用される可能性は極めて大であつたのであり、原告は被告の前記(一)記載の言動によりその利益を奪われたものであるから、これら供覧に至る一連の手続は実質的にみて供覧の目的に明白に違背し、関係権利者に対し著しく不公正で違法である。

4(違法事由の三―照応の原則違反)

本件仮換地は本件従前地と著しく条件が異なり、また近隣の権利者と比較して著しく不公平・不合理な仮換地であり、法八九条一項に違反する。

(一)(1)  原告は本件従前地を昭和四八年にガソリンスタンド用地として買い求めたものであるが、ガソリンスタンド用地の条件としては、諸官庁の許認可手続上近隣の既存店舗との距離関係が重要であることはもとより、土地の形状においても最低限間口二五メートル、奥行一八メートルを有することが必要であるので、原告は諸所探索の末漸く、新青梅街道に沿つて私道部分を含めた間口が約二五メートル(私道部分を除くと約二三メートル)、奥行約一九メートルの本件従前地をその適地として見出したのである。

(2)  しかるに本件仮換地は、新青梅街道に沿つて従前の約六割にしか当たらない一四・四メートルの間口しかないばかりか、本件従前地の西側に存した私道も廃されたため、ガソリンスタンド用地としては利用できなくなり、商業地としての利用価値も格段に下落した。

(3)  そもそも土地区画整理のための仮換地の指定をするに当たつては、指定をする者は土地の形状・位置・広狭・地価等土地自体の有する具体的条件を尊重して指定をすべき義務があるのにも拘らず、被告は単に減歩率にのみ重点をおき右の具体的条件を無視して指定をしたため原告にとつて極めて不利な処分となつたのである。

(二)(1)  本件処分を近隣者に対する仮換地指定と比較してみても、次のとおり、近隣者に対する仮換地は、表道路である新青梅街道に面した間口がそれぞれ従前地とほぼ等しいものになつているのに対し、原告に対する本件仮換地のみは、従前の間口(私道を含む。)約二五メートルを一四・四メートルとして大幅に横幅を削り取り、奥行は従前の約一九メートルを三〇・一メートルに延長して細長さを増し、その利用価値を著しく減少させたもので、不公平である。

(2)  青梅産業株式会社(以下「青梅産業」という。)の従前地の間口は約三〇メートルであつたところ、仮換地の間口は二八・七メートルでほぼ同様であり、その上本件の区画整理事業により新設された松原二本木線に面しても三五メートルの間口をもつこととなつた。

(3)  中西昭治(以下「中西」という。)の従前地の間口は約一二・五メートルであつたところ、これと同一の約一二・五メートルの間口を有する仮換地が指定された。

(4)  中垣広一(以下「中垣」という。)の従前地の間口は約一四メートルであつたところ、これとほぼ同一の一三・七メートルの間口を有する仮換地が指定された。

(5)  高水長次、高水正男(以下両者併せて「高水」という。)の従前地の間口は約一四メートルであつたが、一五・八メートルの間口を有する仮換地が指定された。

(6)  田中三郎(以下「田中」という。)の従前地は公路に面しない袋地であつたが、南側に新設された六メートル道路に面して一三・三メートルの間口を有する仮換地が指定された。

5(結論)

以上のとおり本件処分は違法であるのでその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2冒頭部分のうち、本件処分が換地計画を定めないでされたことは認めるがその余は争う。

(二)  同2(一)は争う。

仮換地は前段の場合、後段の場合ともに、区画整理事業の円滑な進捗のみならず関係権利者の権利関係の速やかな安定を図り、これらの者をして実質上換地処分がされたと同じような効果を得させ、もつて事業の促進と私権行使の確保を図るためのものであり、その両者の間に目的・本質の差はない。

(三)  同2(二)のうち、前段の場合には換地計画を定めておく必要がないことは原告主張のとおりであるが、その余は争う。

(四)  同2(三)は争う。

仮換地が一時使用的なものであれば、それはあくまで近い将来変更されて換地予定的なものが別途に指定される筈であるから、これを換地予定的なものと信ずれば不測の損害を被るかも知れないが、前段の場合の仮換地はこのようなものでなく、換地予定的な仮換地であるから、これを換地予定的なものと信じても何ら不測の損害を被る恐れはない。また仮換地の変更の可能性、その影響に対する措置の必要性は前段のみならず後段の場合も共通の問題であり、前段・後段の仮換地とも一旦指定すれば特別の場合以外は変更すべきものではないのである。

また仮清算金についても、法一〇二条は前段・後段の場合双方を含むものであり、そのいずれの場合も仮清算の実施は施行者の裁量に任されているところである。

(五)  同2(四)は争う。

3(一)  同3冒頭の主張は争う。

(二)  同3(一)の事実のうち、被告が昭和五二年八月一六日から同月二九日まで仮換地案を供覧に供したこと、昭和五〇年三月頃東善院で地主説明会を開催したことは認めるが被告が原告主張のように確言したとの事実は否認する。

(三)  同3(二)の事実のうち、被告が昭和五二年八月二日仮換地案を仮決定し、これを供覧に供したうえ仮換地指定をしたこと、原告から昭和五五年七月一七日意見書が提出されたが採用されなかつたことは認め、その余は争う。

(四)  同3(三)は争う。

4(一)  同4冒頭の主張は争う。

(二)(1)  同4(一)(1)の事実のうち、原告が本件従前地を昭和四八年に取得したこと、本件従前地の間口は私道部分を含めると約二五メートル、私道部分を除くと約二三メートルであること、その奥行が約一九メートルであつたことは認める。私道部分は除くべきである。ガソリンスタンド用地として取得したとの点は不知。ガソリンスタンド用地の条件は争う。

(2)  同4(一)(2)の事実のうち、本件仮換地の間口が一四・四メートルであることは認めるが、ガソリンスタンド用地として利用できなくなつたとの主張は争い、商業地としての利用価値が下落したとの事実は否認する。

(3)  同4(一)(3)は争う。

(三)(1)  同4(二)(1)の事実のうち、本件従前地の間口、奥行、本件仮換地の間口、奥行は認めるが、その余は否認する。

(2)  同4(二)(2)の事実のうち、間口は認めるが、その余は否認する。

(3)  同4(二)(3)の事実のうち、従前地の間口は否認し、その余は認める。従前地の間口は一四メートルであつた。

(4)  同4(二)(4)の事実は認める。

(5)  同4(二)(5)の事実のうち、従前地の間口は否認し、その余は認める。従前地の間口は一六メートルであつた。

(6)  同4(二)(6)の事実のうち、仮換地の間口は認めるが、その余は否認する。

5  同5は争う。

三  被告の主張

1(本件処分に至る経緯)

(一)  本件の事業は、「福生都市計画事業瑞穂町西部土地区画整理事業」といい、昭和四七年一二月二五日土地区画整理事業の決定、同四九年七月二六日事業計画設計概要の決定、同年八月一日事業計画決定を経、昭和五〇年六月七日評価委員会において評価基準の決定、同年一〇月一八日評価委員会において路線価の仮決定、同年一一月二八日土地区画整理審議会(以下「審議会」という。)において換地基準の決定が行われ、同月以降昭和五二年三月まで仮換地案の作成準備がされ、同月以降同年八月まで審議会において仮換地案が検討され、同月二日仮換地案の仮決定がされ、この仮換地案を同月一六日から同月二九日までの間供覧に供したが、この間は勿論昭和五五年七月一七日まで原告からは何らの意見も異議申立てもなかつた。ついで昭和五三年一月三〇日仮換地案に対する意見書につき検討し、昭和五五年八月二九日審議会において仮換地決定をし、同年九月一一日第五次仮換地指定として原告に対する本件処分をした。

(二)(1)  昭和五二年八月二日審議会で仮決定された仮換地案は、換地の位置につき換地基準四条ないし六条の定める従前地の位置等との関係を考慮し、青梅産業を現地換地とし、同所から東に向かつて従前地の順序と同様新青梅街道沿いに中垣、中西、原告、雨宮光蔵(以下「雨宮」という。)の順序で配置し、さらに国道一・三・五号線となる土地を従前地として持つ高水については、青梅産業の南側で緑道三四号と区画街路七二号線によつて囲まれる部分を予定した。

(2)  供覧の結果高水から従前地と同様新青梅街道に面してほしい旨の意見が出されこれが採用されたため、原告の仮換地は東に約一〇メートル移動することとなつた。そこで昭和五五年七月九日被告は原告に対し右の変更について了解を求めたところ、原告は突然仮換地案に不服がある旨主張し、同年七月一七日付でガソリンスタンドを営業するには間口が狭いとの意見書が提出された。しかし、審議会において原告の意見は採用されないことと決定され、同年八月二九日前記のとおり変更された案で仮換地決定を経たうえ、同年九月一一日被告は第五次仮換地指定をした。

2(換地計画に基づかない仮換地指定処分について)

本件処分は、換地計画に基づかないでされたものであるが、法九八条一項の「工事の必要があるため」された仮換地指定処分であつて適法で、何らの違法もない。

(一)  まず、前段による仮換地指定と後段による仮換地指定との関係については、むしろ条文上も前段の場合こそ原則的な仮換地指定であり、実際上土地区画整理事業は長期間にわたり大規模な工事を必要とするため、全施行地区につき一度に工事を行うことは不可能で、施行地区を幾つかの区域に分けて漸次工事を行わざるをえないから工事の進行具合に応じて迫つた工事のために必要な範囲内の土地につき順次仮換地の指定を行う方がより合理的かつ妥当な方法である。従つて、実務上すべて前段による仮換地指定がされており、これが原則的仮換地の指定であつて、後段による仮換地指定は例外的かつ実例のない仮換地指定なのである。

(二)  仮換地指定は、前段の場合と後段の場合とで仮換地の本質が相違するものではなく、仮換地はあくまで法九八条一項に基づく仮換地として同一の性格、すなわち換地予定的なものであり、同条項はかかる同一の性格をもつ仮換地を指定できる場合が、前段の場合と後段の場合の二つの場合があると規定しているのである。同項後段は「従前の宅地について地上権‥‥を指定しなければならない。」と定め、また同条二項は「換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない。」と定めているが、本来一時利用的な仮換地であれば右規定の適用は必要がないはずであるのに前段の場合にも等しく適用されるのは、それが換地予定的仮換地であることを示すものであることにほかならない。

これに反し、原告が主張するような性格の仮換地指定は、法九八条にいう仮換地ではなく、工事のため必要な仮移転とか又は中断移転の措置なのであつて、かえつて被指定者に不利であるか、又は、被指定者の受けた仮換地の従前の所有者に不利であるかであつていずれも適当とはいえない。

(三)  法九八条一項前段の「工事のため必要がある場合」とは、工事の直接対象となる土地のみを意味するものでなく、その近隣の土地について順次仮換地を指定する必要がある場合を含むものである。

けだし、法律上は「工事のため必要」と規定されているだけであつて、直接工事のため必要ある場合に限定されていないことは明らかである。区画整理上の工事の施行に当たつては、工事の直接対象となる土地のみならず、これに順次近隣する土地についても仮換地を行うことが必要とならざるをえないのである。もし、工事に直接必要な土地についてのみ仮換地を指定しうるとすると、その仮換地に指定された土地の従前の所有者は、従前地の使用権を奪われる結果となるから、極めて不利な立場に立たされることになる。従つて、工事のため必要な仮換地指定は必然的に順次近隣一帯に拡大するものであつて、工事のため必要がある場合の工事とは、当該直接の工事そのものでなく、区画整理事業の工事全体を意味しているというべく、結局、その範囲も、整理事業に必要な全区域を含むと考えられる。

このように工事の必要に応じて、直接対象土地のみならず順次その近隣土地に対して、将来換地予定的な仮換地指定を行うことによつて、仮換地の被指定者及び仮換地の従前の所有者が被る前記の不利を一挙に解決できるのである。

(四)  以上のように解しても、被指定者の権利保護には何ら問題はない。

(1) 前段による仮換地指定に当たつては法九八条二項が適用されるから、換地計画には基づいていなくても換地計画の決定の基準に基づいてなされているわけであつて、結局同一の基準に還元されるものでしかない。

そして、右基準に反する仮換地指定処分に対しては、それが前段の場合であれ後段の場合であれ、仮換地指定自体に対して不服申立て、出訴等ができるものであるから、権利者の保護について前段と後段に差があるわけではない。

(2) さらに、本件のごとく公共団体施行の区画整理においては、仮換地指定に当たつて審議会の意見を聞くことになつており、慎重な手続により権利者の意見が反映されるようになつている。

(3) 前段により仮換地を指定した場合においても換地処分が行われる前には必ず換地計画が定められ、利害関係人に十分意見を述べる機会が保障されている。

(4) さらに利害関係人の意見を事前に広く採用する趣旨において、仮換地案を供覧に付し、これに対し利害関係人が意見を述べる機会を与えている。そして、提出された意見については審議会への報告、審議を経て、採用すべきものについては仮換地案を修正する等したうえ、審議会の決議を経たうえで仮換地を指定している。

従つて、前段の場合における関係人の権利保護は、後段の場合に比して優るとも劣らないものである。

(五)  ところで法律上の換地計画とは、(一)換地設計、(二)各筆換地明細、(三)各筆各権利別清算金明細、(四)保留地その他の特別の定めをする土地の明細等を定めなければならず(法八七条)、これを作成するためには、土地についての権利の実態調査、換地の基準となる従前の土地の地積の決定等相当の労力と時間を要し、早期に換地計画を決定することは容易でなく、換地計画が定められるまで工事の施行ができなくなると土地区画整理事業の進捗を著しく阻害する結果となる。それだけでなく、折角換地計画を作成してみても、換地処分の時期までには長期間の日時が必要であるから、この間に、事業計画の変更、土地所有者その他の権利の変更があり、また地価の変動等による清算金の額の変更等も不可避であるから、予め換地計画を作成してかゝらねばならない実益は極めて乏しいものである。

そこで、被告は、将来の換地計画の一内容となるべき設計の方針、評価基準、換地基準を決定し、これに基づく仮換地案を作成して、先に主張したとおり、関係権利者の供覧に供し、意見書提出の機会を与え、提出された意見を審査し、審議会の決定を経たうえで仮換地を指定しているのである。これらの手続は、単なる事実上のものでなく、仮換地案の妥当性を保障し、関係権利者の権利保護の上から有意義なものである。

(六)  本件処分は次のとおり「工事のため必要」であつたものである。

(1) 被告が昭和五五年九月一一日にした第五次仮換地指定は数ブロックに分かれるが、このうち、指定街区番号一〇一番ないし一一四番が一ブロツクを形成し、本件従前地及び仮換地は、このうち一〇一指定街区に存する。

(2) 右ブロツクの工事には、まず、国道一・三・五号線の工事があるが、右一・三・五号線は、国道一六号線のバイパスとして計画され、一〇一街区付近の幅員は約五〇メートルであるが、既に延長約一四〇〇メートルのうち約半分の部分について更地化を終つて建設省に引渡しずみであり、さらに昭和五六年度中に残部の更地化を終つて引渡す必要があつた。

そして、この部分には、従前地として、高水、青梅産業、丹生勘二、福岡三子夫、浜中喜久雄等があり、これらを移転させるためには右の者のみならず、さらにその近隣に位置する原告等の従前地について仮換地を指定することが必要となつた。

(3) 次に区画街路七一号線の工事は新青梅街道に平行して一〇一街区、一〇二街区と公園六号、一〇六街区を分ける幅員六メートルの新設街路であり、この七一号街路に当たる従前地は、雨宮、馬場伊佐美、志村勇夫、池谷時男、田中、中垣などがあり、これらを移転させるためには、右の者のみならずさらにこれに近隣する原告等の従前地についても仮換地を指定することが必要である。

なお、右七一号線の一部は既に当該部分を借り上げして工事を行つてきており、昭和五六年度中にその余の部分の工事をする計画であつた。

(4) 以上のほか、区画街路七二号線、同七三号線、緑道三四号、同三五号、同三六号、公園六号などの工事が必要であるが、これらの従前地を移転させるに当たつて、その近隣の土地も順次仮換地することが必要であり、従つて、原告の仮換地指定も必要となつたのである。

3(照応の原則について)

(一)  本件仮換地は本件従前地とよく照応しており、適正公平であり法八九条一項によく適合している。

まず法八九条一項の定める照応の各要素について本件従前地と仮換地を比較検討してみると、

〈1〉 位置 両者ともに新青梅街道に面しており、距離的にも僅かに約二〇メートル程度東へ移動したものに過ぎず、ごく部分的ではあるが従前地と仮換地とが重なり合つている部分すらある。用途指定は、新青梅街道から二〇メートル以内が第二種住居専用地域であり、商業地域でも近隣商業地域でもない。

〈2〉 地積 仮換地が僅かに減歩になつている程度であつて、平均減歩率二一・八五パーセントに比して原告の受けた減歩は七パーセントで極めて少ない。

〈3〉 土質、水利 従前地、仮換地につき全く同一条件である。

〈4〉 利用状況 従来から雑草の生えた程度の平坦な空地であることは、従前地、仮換地とも全く同一である。なおここにいう利用状況とは、従前地及び仮換地の現実の客観的利用状況を指すものであつて、原告の内心における将来の予定ないし希望まで含むものではないことは当然である。

〈5〉 環境 従前地、仮換地とも全く同一である。となつており、法の定める照応の原則をよく満足している。

なお、法律の定める要素ではないが、区画の形状についても検討すると、

〈6〉 土地の形状 従前地の形状が、新青梅街道に対しやや斜めになり不整形であつたのに対し、仮換地は、新青梅街道に対し直角になり、整形となつた。ただ、従前地が、やや横長の形であつたものが、仮換地ではやや縦長の形となつている。これは新青梅街道へ出る国道一・三・五号線に幅員約五〇メートルを取られ、また、緑道三六号、区画街路七五号線等に幅員を割愛するなど、各土地の間口を全般的に縮小せざるをえない合理的な措置である。また、換地基準九条(間口)に「画地の間口は宅地の利用状況を考慮し、原則として奥行の三分の一以上となるように定める」とあり、同一〇条(割込)に「画地の裏界線は、原則として直通または連続するようにし」とあるのでこれを原告の仮換地について当てはめると、奥行は三〇・一メートルに対し間口は一四・四メートルであつてほぼ二分の一であり、九条の三分の一を十分満足しており、かつ、裏界線は直線で新青梅街道及び区画街路七一号線に平行して直線となつており、理想的な設計となつているものである。

以上のとおり本件仮換地は照応の原則を十二分に満しているのである。

なお、原告所有の私道部分(一四一八―三、一四一八―二〇、一四一八―二二の三筆)については、法九五条一項六号に定める公共施設の用に供している宅地であるので、同条六項の定めるところに従い、審議会の同意を得て換地を定めないものとしたものである。

(二)  本件仮換地は、近隣土地所有者と比較しても公平平等である。

(1) 原告について

従前地の間口約二三メートル、奥行約一九メートルであつたが仮換地は間口一四・四メートル、奥行三〇・一メートルとなつた。利用状況・減歩率については(一)のとおりである。

(2) 青梅産業について

従前地は、間口約三〇メートル、奥行約四五メートルであつたが、仮換地は間口約二八・七メートル、奥行約三五メートルのやや梯形である。

青梅産業は、現在既に三棟の建物があり、現に営業中であり、換地基準六条により現地換地が原則であるからこれに従つたものであつて、現実の利用状況を考慮して仮換地したものであり、これの相違する原告と比較すべきものではない。また、原告の主張する松原二本木線(国道一・三・五号線)と青梅産業の仮換地との間には、緑道三四号が存在しており、緑道上は約二メートルの土盛りをし、かつ植樹をしてバイパスの騒音を遮断するので出入はできないのである。

減歩率は一六パーセントであつて原告の倍以上である。

(3) 中西について

従前地が間口一四メートル、奥行三一・五メートルであるのに対し、仮換地は、間口一二・五メートル、奥行三〇・六メートルである。中西の場合、前記換地基準九条の間口を奥行の三分の一以上とすることに従前地が既に近いので、仮換地でこれ以上間口を狭めることはできない。

利用状況は、平坦な土地で建物はないが一部を駐車場に利用している。減歩率は九パーセントであつて、原告より二パーセント多い。

(4) 中垣について

従前地は間口一四メートル、奥行八五メートルの長い土地で、北側において新青梅街道に、南側においても公道(町道)に面していた土地である。それが、仮換地の結果、一か所は間口一三・七メートル、奥行三一メートルの新青梅街道に面した土地となり残りは飛換地となつている。従つて、間口のみ取り上げて原告と比較することは許されない。

利用状況は、梅林であつたが、補償費を支払つて移植させた。減歩率は、新青梅街道に面した土地は二〇パーセントであつて、原告の三倍に近い。

(5) 田中について

田中の従前地は、もともと新青梅街道に面しておらず、四メートルの私道に面していた。仮換地は、新設される区画街路七一号線に宅地の南側が接することとされた。従前地の間口一二・五メートル、奥行一三メートル、仮換地では間口一三・三メートル、奥行一二・五メートルである。

利用状況は、居宅があつて現に本人ら家族が居住しており、原告と利用状況を根本的に異にする。減歩率は、五〇坪以下は減歩しない原則により零である(換地基準一三条)。

以上のとおり、原告は間口のみを比較し、従前地の状況、利用状況、減歩率その他一切を無視しているのであるが、これらを総合的に考慮比較すれば、原告は近隣権利者に比し不利となつていることはなく、平等公平な換地を受けているのである。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1(一)  被告の主張1(一)の事実は認める。

(二)(1)  同1(二)(1)の事実のうち、昭和五二年八月二日審議会で仮換地案を仮決定したことは認め、その余は不知。

(2)  同1(二)(2)の事実のうち、高水から意見が出されたこと、仮換地が供覧した仮換地案から東へ約一〇メートル移動することとなつたことは不知、その余は認める。

2(一)  同2冒頭部分及び(一)は争う。

(二)  同2(二)は争う。

なお、換地計画に基づかない仮換地の指定を行う際にもやはり換地計画の決定の基準を考慮しなければならないとされている(法九八条二項)のは、一時利用地的仮換地指定は、指定された仮換地が将来被指定者の換地となるべきものではなく、単に工事施行のため一時従前地の使用収益を停止させる代わりに他の土地を仮に使用収益させるものであり、従つて従前地の権利者は仮換地の使用収益につき重大な利害関係を有するので、法は事業に伴う私権の制限を最小に留めるため、換地予定地的仮換地指定の場合と同様に換地計画決定の基準を考慮しなければならないとしたものであり、この点に関する被告の主張は、関係権利者の権利保護に思い至らぬ独自の見解である。

(三)  同2(三)は争う。

(四)  同2(四)は争う。

特に同(3)については、一度仮換地の指定がされると、順次新しい権利関係が仮換地を中心に形成され、仮換地の変更はより大なる公益実現のために必要がある等特別の事情がない限り許されないと解されているから、換地処分の段階に至つては手続上権利者の意見が反映される余地は極めて乏しいのである。

また(4)については、実際上換地計画案を縦覧に付していてもこれはあくまで事実上の案に過ぎないので関係権利者が不測の損害を被る恐れがあるのは請求原因2(三)で述べたとおりである。

(五)  同2(五)は争う。

早期に換地計画を決定することは必ずしも困難とはいえず、被告の真意は専ら換地計画変更手続が煩瑣であるということに尽きるものといえるが、法が特に「換地計画に基き」仮換地処分を行うため必要がある場合と規定したのは、換地処分が関係権利者の権利関係に重大な変更を招来する処分であることに鑑みて換地計画に基づき慎重になされるべきことを予定したものと解されるのであり、換地計画に基づかない換地予定地的仮換地の指定は許されないのである。

(六)  同2(六)の冒頭部分は争い、その余は不知。

3  同3について

被告は単に減歩率にのみ重点をおき、土地の形状・位置・広狭・地価等土地自体の有する具体的条件を無視して本件処分をしたものであり違法である。

なお同(二)(2)ないし(5)掲記の各従前地及び仮換地の奥行並びに原告所有の私道につき換地を定めなかつたことは認めるが、右私道は一般人の通行の用に供されていたものではなく、公共施設の用に供している宅地とはいえない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(本件処分の存在)、被告の主張1(本件処分に至る経緯)(一)の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(違法事由の一―換地計画を定めないでした仮換地指定処分)について判断する。

1  本件処分が換地計画を定めないでされたものであることは当事者間に争いがない。

法九八条一項は、施行者が仮換地指定をすることができる場合として、「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」、又は「換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」に、それぞれ仮換地を指定することができる、と規定しており、前段の場合には必ずしも換地計画に基づいてすることを要しないことは条文上明らかである。そして同項が両者の場合を特に区別して規定している趣旨からすると、後段の場合は、仮換地がそのまま本換地に移行することを予定するいわゆる換地予定地的仮換地指定であるのに対し、前段の場合は、必ずしも仮換地がそのまま本換地に移行することを予定しているわけではなく、ただ単に工事のため一時的に使用収益権を他に移す必要があるときに仮換地指定をすることができる旨規定したものであると解される。

被告は、前段の場合及び後段の場合の仮換地はともに法九八条一項に基づく仮換地として同一の性格を有するものであるとし、同項後段が従前地に地上権等を有する者があるときは仮換地について仮にこれらの権利の目的となるべき宅地又はその部分を指定しなければならないとし、また同条二項が仮換地の指定に当たつては、換地計画の決定の基準を考慮しなければならないとしているのも、前段の場合及び後段の場合のいずれもいわゆる換地予定地的仮換地の指定であり全く同一の性質・目的を有するものであることを示すものであると主張する。

しかしながら、法九八条一項前段の仮換地指定は、前記のとおり必ずしも本換地に移行することを予定しているものではないから、右の点において後段の場合とは性質を異にしているといわなければならない。そして仮換地指定において施行者が関係権利者の権利保護のため特段の配慮が必要であることは前段の場合及び後段の場合を通じ同様であるから、同条一項後段、二項の規定が前段の場合及び後段の場合に等しく適用されるからといつて、いずれの場合をも換地予定地的仮換地であると論断することはできない。

2  そこで、法九八条一項前段の「工事のため必要がある場合」の意義について検討するに、右の「工事のため必要がある」とは、必ずしも当該従前地が直接工事の対象となつた場合のみではなく、工事の対象となつた土地に近隣する土地について順次仮換地を指定する必要がある場合も含むと解すべきである。けだし、仮に「工事のため必要がある」とは当該従前地が直接工事の対象となつた場合に限ると解するとすれば、右土地に対する仮換地を指定するためには施行者において右土地と照応する土地につき(法九八条二項)管理権その他の使用収益権を有していなければならないこととなるが、このような事態は常に期待しうるものではないのであり、また、このような場合に常に換地計画を定めて仮換地を指定しなければならないとすれば、実際上工事の施行は換地計画が定められるまで不可能となり、さらに換地計画の内容に変更が生ずれば法の定める変更手続を履践しなければならないから、土地区画整理事業の進捗を著しく害することとなるからである。

3  ところで、「工事のため必要がある場合」を前述のように解すると、本来は本換地を予定している換地予定地的仮換地であつても、同時に工事のための必要性が肯定されれば換地計画を定めずに仮換地指定をすることができるか否かが問題となる。しかしながら、法は仮換地指定の手続、効果等について前段の場合と後段の場合とを区別しておらず、いずれの場合も仮換地指定に当たつては換地計画の決定の基準を考慮しなければならないとし(九八条二項)、右基準に反する仮換地指定に対しては不服申立てをすることができる(一二七条の二)から、権利者の保護について前段の場合と後段の場合とで差異はない。また、公共団体の施行する土地区画整理事業について仮換地を指定する場合には予め審議会の意見をきくこととされており(九八条三項)、さらに、前段の仮換地指定の場合においても換地処分が行われる前には必ず換地計画が定められ、利害関係者に意見書提出の権利が与えられるから(八六条、八八条)、換地計画に関与する機会がないわけではない。もつとも、一旦換地予定地的仮換地の指定が行われれば、新しい権利関係が右仮換地を中心として形成され、建物の移転・除却、土地の区画形質の変更等の工事も完成してしまい、換地処分の前に換地計画の縦覧・意見書の提出など法八八条に定める関係権利者保護の手続が履践されても、この段階においては既に実際にされた換地予定地的仮換地を実質的に変更することは事実上困難であるとみられる場合がないわけではない。従つて、換地予定地的仮換地であるが、同時に工事のための必要性が肯定され、換地計画を定めない場合には、関係権利者の権利保護のための措置がとられているか否かを検討する必要がある。

4  そこでこれを本件についてみるに、成立に争いのない乙第一三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一、第八、第一一号証、撮影者・撮影年月日・撮影場所につき争いのない乙第一四号証の七ないし九及び証人布田英男の証言並びに弁論の全趣旨によれば、被告の主張2(六)(1)ないし(4)の事実が認められ、これらの事実によれば本件処分は、「工事のため必要がある場合」に該当するものということができる。

そして、さらに昭和五〇年六月評価委員会で評価基準を決定し、同年一一月審議会で換地基準の決定、昭和五二年八月二日仮換地案の仮決定がされ、同月一六日から二九日までこれを供覧に供しこの間提出された意見書につき検討を加えたのち、昭和五五年八月二九日仮換地決定がされ、同年九月一一日本件処分がされたことは当事者間に争いがなく、証人布田の証言によれば、「供覧」とは、仮換地指定を円滑に行うため被告において法八八条に定められた縦覧の手続に準じ、事実上公衆の縦覧に供する手続であることが認められるから、これらの手続は換地計画の決定につき定めた法八八条の手続に準ずるものであつて、関係権利者は仮換地の指定につき意見を述べる機会が十分に与えられていたものといえるから、前記の諸点と併せると関係権利者の保護に欠けるところはないものというべきである(なお原本の存在及び成立に争いのない乙第九、第一〇号証並びに証人布田の証言によれば、右供覧時の原告の仮換地の位置と本件仮換地の位置が多少相違し、本件仮換地の位置は供覧時の位置より東に約一〇メートル移動していることが認められるが、右各証拠及び前掲乙第一三号証によれば、右変更は、当初の仮換地案では青梅産業の西隣りに新青梅街道に面する従前地を有していた高水に対し緑道三四号と区画街路七二号線により囲まれる部分を指定し、新青梅街道沿いに従前地と全く同一の順序で青梅産業・中垣・中西・原告・雨宮の順に仮換地を指定することとしていたところ、供覧の結果、高水から従前地と同様新青梅街道に面するようにして貰いたいとの意見が出され、これが採用されて青梅産業の東隣りに仮換地指定をすることとなつたため、中垣・中西・原告がともに東に移動したものであることが認められ、これ自体合理的な変更であり、また原告はこの点について不服を主張していないこともその主張から明らかである。)。

5  これに対し原告は、右のように実際上換地計画案を縦覧していても、法に基づかない事実上の案の縦覧に過ぎないから、法の定める換地計画の変更に比し簡易に行われる危険があり関係権利者に不測の不利益ないし損害を被らせる恐れがあると主張する。

なるほど換地計画の変更については法九七条で厳重な手続的規制があるのに対し、仮換地案の変更については特段の規定がないので後者の方が簡易に行われうるようである。しかし、本件はこのように(仮)換地計画案の変更があつたために原告が不測の損害を受けた事案ではないし、また仮に不測の損害を被つた者がある場合には、仮換地変更処分ないしは換地処分の取消しを訴求してその救済を得ることも困難ではないことを考慮すると、簡易に変更される恐れがあるからといつて直ちに換地計画に基づかない仮換地指定が違法となるものとは解されない。

次に原告は、換地計画に基づかない仮換地指定の場合は、仮清算金を受けられない不利益が生ずると主張するが、仮清算金を交付するか否かはもともと施行者の裁量に任されていると解される(法一〇二条)ので、これを違法の理由とすることはできない。

よつて請求原因2(違法事由の一―換地計画を定めないでした仮換地指定処分)は理由がない。

三  請求原因3(違法事由の二―供覧手続の瑕疵)について検討する。

被告が昭和五〇年三月頃東善院で地主説明会を開催したこと、被告は昭和五二年八月二日仮換地案を仮決定し、同月一六日から二九日までこれを供覧に供したこと、原告は昭和五五年七月に至つて初めて仮換地案に対して意見書を提出したが採用されなかつたことは当事者間に争いがない。

原告は、右東善院での説明会において被告が新青梅街道に面した宅地で実測して買つた人については現地換地となり従前と全く変更はない旨確言したと主張する。

しかしながら、右原告主張に副う原告本人の供述は、証人布田の証言と対比し措信しえないばかりか、前記争いのない本件処分に至る経緯に照らすと右説明会当時は換地基準ないし仮換地案等がまだ未定であつた段階であることが明らかであるから、右のような説明がされるなどということは経験則上考え難いこと並びに原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記意見書及び本件の審査請求書において全く右のような主張をしていないことが認められることに照らすと前記原告本人の供述部分は到底採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。従つて請求原因3(違法事由の二―供覧手続の瑕疵)はその前提を欠き失当である。

四  請求原因4(違法事由の三―照応の原則違反)について検討する。

1  原告は本件従前地をガソリンスタンド用地として買い入れたところ、本件仮換地は間口が狭くガソリンスタンド用地として利用できず、商業地としての利用価値も格段に下落し、本件従前地と照応しないと主張するので、まず従前地と(仮)換地とが照応すべきことを定めた法八九条一項に掲げられた各要素につき検討することとする。

前掲乙第一、第一〇、第一三号証、撮影者・撮影年月日・撮影場所につき争いのない甲第四号証の一、二、乙第一四号証の一、二及び証人布田の証言、原告本人尋問の結果によれば、まず「位置」については、本件従前地と本件仮換地はともに新青梅街道に面しており、本件仮換地は本件従前地より約二〇メートル東に移動したに過ぎず、両者が重なり合つている部分もあること、「地積」については本件事業地内の平均減歩率は二一・八五パーセントであるが、原告に対する減歩率は七パーセントであること、「利用状況」はともに雑草の生えた平坦な土地であり、原告は本件従前地を何ら利用せず、空地のままとしていること、「土質」「水利」「環境」については本件従前地と本件仮換地は同一条件であることがそれぞれ認められる。

さらに照応の原則を判断するにつき重要な要素となりうる「土地の形状」についてみると、本件従前地の私道部分を除く間口、奥行はそれぞれ約二三メートル、約一九メートル、本件仮換地の間口、奥行はそれぞれ一四・四メートル、三〇・一メートルであるから(右の事実は当事者間に争いがない。)、本件従前地がやや横長の形であつたものが、本件仮換地では縦長の形となつたということができ、前掲乙第一三号証によれば本件従前地は新青梅街道に対しやや斜めの不整形な土地であつたが、本件仮換地はほぼ直角の整形な土地であることが認められる。

また前掲乙第八、第一三号証及び証人布田の証言によれば、本件従前地・本件仮換地の所在する一〇一街区の西側には現在幅員三・六メートルの道が存在するのみであるが、本件の事業によりここにこの付近での幅員が五一メートルにも達する都市計画道路一・三・五号線を新設し、かつ右道路と一〇一街区との間に幅員七メートルの緑道三四号を、一〇一街区の東側にも幅員五メートルの緑道三六号を、それぞれ新設するため、一〇一街区に所在する区画は全体的に間口を減少させざるを得ないことが認められる。

さらに成立に争いのない乙第六号証の一、二並びに証人布田の証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件従前地の西隣りに存在する原告所有の私道については、一般公衆の用に供されていたことから法九五条一項六号、六項、七項に従い、審議会の同意を得たうえ換地を定めないこととしたことが認められる(換地を定めないこととしたことは当事者間に争いがない。)。

右認定の諸事情を総合すれば、本件従前地と本件仮換地とはほぼ同一の条件と認めることができるから、照応の要件を満たしているものというべきである。

原告は昭和四八年本件従前地をガソリンスタンド用地として取得したが、本件仮換地では間口が狭く右用地としては使用することができない旨供述する。しかし、前認定のとおり原告は本件従前地を取得した後実際には空地のままとし、何ら利用していなかつたものであり、前掲甲第三号証及び証人布田の証言によれば、原告は昭和五五年七月一七日付意見書で初めて本件従前地でガソリンスタンドを営業する意向であること、本件仮換地では間口が狭い旨を申し出たものに過ぎないことが認められるから、ガソリンスタンドの用に供することは原告の将来の予定ないし希望に過ぎないものというべきであつて、これを本件従前地の事情として加味することは相当でなく、本件仮換地により商業地としての利用価値が客観的に下落したといえないことはいうまでもない。

2  次に原告は、本件処分は近隣者に対する仮換地指定に比し著しく不公平であると主張するので検討する。

青梅産業の従前地は新青梅街道に面して間口約三〇メートル、奥行約四五メートルであつたが仮換地は間口二八・七メートル、奥行約三五メートルであること、中西の従前地の奥行は三一・五メートル、仮換地の間口は約一二・五メートル、奥行は三〇・六メートルであること、中垣の従前地の間口は約一四メートル、奥行は八五メートル、仮換地のうちの新青梅街道に面する一か所の間口は一三・七メートル、奥行三一メートルであること、高水の仮換地の間口は一五・八メートルであること、田中の従前地の奥行は一三メートル、仮換地の南側に新設された六メートル道路に面する間口は一三・三メートル、奥行は一二・五メートルであることは当事者間に争いがなく、前掲乙第一三号証及び証人布田の証言によれば、中西の従前地の間口は一四メートル、高水の従前地の間口は一六メートルであり、田中の従前地は私道に面して約一二・五メートルの間口を有していたことが認められこれに反する証拠はなく、また原告の本件従前地は私道部分を除いても間口は約二三メートル、奥行は約一九メートルであつたのに対し、本件仮換地の間口は一四・四メートル、奥行は三〇・一メートルであることは前説示のとおりであり、これらの事実によると、原告の近隣者はいずれも新青梅街道等に面して従前とそれほど変わらない間口を有する仮換地が指定されたのに、原告のみ間口が大幅に減少する代わり奥行が延長され、縦長の仮換地を指定されたことが明らかである。

そこで近隣者に対する仮換地指定処分につき検討することとする。原本の存在及び成立に争いのない乙第三ないし第五号証及び証人布田の証言によれば、被告は予め定めた換地基準に基づき換地の処理をすることとし、仮換地の指定については右換地基準を準用することとしたが、右換地基準三条は「換地の地積は、別に定める評価基準を基として定める。」とし、いわゆる路線価方式による評価基準を別に定めていること、右換地基準五条は「従前の宅地が都市計画街路に含まれている場合は、つとめて街路に接する位置に換地するものとする。ただし、特別の事情のあるものについてはこの限りでない。」、六条は「建物・工作物等の存する宅地の換地は、つとめて原位置とする。ただし、宅地の利用状況により換地設計上必要がある場合はこの限りでない。」、九条は「画地の間口は宅地の利用状況を考慮し、原則として奥行の1/3以上となるように定める。」、一〇条一項は「画地の裏界線は、原則として直通または連続するようにし、短辺側に画地を並べる場合はT字型またはI字型とする。」、一三条は「事業計画を定めた日現在の小宅地(借地を含む)については、特に減歩の緩和を計ることが出来る。ただし、その規模及び緩和の率は、土地区画整理審議会の意見を聞いて別に定める。」とそれぞれ定め、また評価基準により、右一三条につき五〇坪以下は減歩率は零と定めていることがそれぞれ認められ、右基準は土地区画整理事業の換地ないし仮換地の基準として合理性を有するものというべきである。

前掲乙第九、第一〇、第一三号証、第一四号証の二、七、八及び撮影者・撮影年月日・撮影場所につき争いがない乙第一四号証の三、五並びに証人布田の証言によれば、青梅産業の場合は従前地上に三棟の建物があるため前記換地基準六条に従つて現地換地をし、間口をやや狭めたこと、同社の仮換地と松原二本木線との間には緑道三四号が存在し、この緑道は中央に盛土があり植樹されているので自動車等の出入はできないこと、減歩率は一六パーセントに上つていること、中西については前記換地基準九条に定める間口が奥行の三分の一に既に近いので間口は変更しなかつたこと、同人は従前地の一部を駐車場に利用していたこと、減歩率は九パーセントであること、中垣については、従前地は細長い土地で南側においても公道に面していたが、仮換地の結果一か所は先に説示したとおりの間口、奥行をもつて新青梅街道に面するが南側においては公道に面せず、もう一か所は飛換地となつたこと、減歩率は二〇パーセントにも及ぶこと、高水については換地基準五条により前記認定の経緯で仮換地は新青梅街道に面することとなつたこと、しかし従前地は北側と西側が公道に面する角地であつたが、仮換地の北側は新青梅街道に従前と同様面するものの、南側が区画街路七一号線に面するやや長い土地となつたこと、減歩率は二筆ともに一〇パーセントであること、田中については従前地には居宅があること、減歩率は換地基準一三条により零であること、雨宮についてはその容認したところに従つて従前の間口を大幅に減少したこと、その減歩率は一五パーセントであること、新青梅街道に面して従前地は西方から高水・青梅産業・中垣・中西・原告・雨宮と並んでいたが、仮換地については青梅産業が換地基準六条に従つて現地換地されたこと及び前認定の経過により西方から青梅産業・高水・中垣・中西・原告・雨宮と並んでおり原告を含む中垣以東については全く同一の順序となつていること、中垣から雨宮までは換地基準一〇条一項に従つて裏界線が直通するように定められていることがそれぞれ認められ、他にこれに反する証拠はない。

前説示のとおり原告の本件従前地、本件仮換地の属する一〇一街区は、都市計画道路一・三・五号線、緑道三四号、三六号を新設するため間口を大幅に縮小する必要があり、結果的には原告及び雨宮の土地の間口が他の者に比して大幅に縮小されることとなつたものであるが、右認定の事情の下では各権利者に対する各仮換指定処分は合理性を有するものというべく、減歩率・現実の利用状況等を総合勘案すると、本件処分が他の仮換地指定処分に比し著しく不公平で合理性を欠くものとは到底いえない。

従つて請求原因4(違法事由の三―照応の原則違反)もまた理由がない。

五  よつて原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 満田明彦 揖斐潔)

物件目録(一)(二)〈省略〉

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